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スイス国民投票 医療財政改革、道路拡張など4件

投票箱
11月24日、スイス有権者は連邦議会が可決した4つの法案について民意を示す Keystone / Gaetan Bally

スイスでは24日、4つの連邦法案をめぐり国民投票が実施される。医療費の財源をめぐる改革案は、過度な入院治療に歯止めをかけ、保険料の上昇を抑える狙いがある。

スイスでは毎年最大4回、国民投票が実施される。今年4回目となる11月24日に賛否を問われる4件はいずれも、連邦議会の決定に異を唱える利益団体や政党が立ち上げたレファレンダム(国民表決)だ。スイスでは有権者5万筆以上の署名を集めれば、議会が可決した法案を国民投票にかけることができる。  

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具体的には、以下の4件が国民投票にかけられる。

①医療費の拠出配分の見直し
②高速道路の主要区間の拡張工事
③賃貸住宅の転貸条件の厳格化
④家主が所有する不動産を私的使用のために賃貸借契約を解除する際の条件緩和

swissinfo.chの親会社であるスイス放送協会(SRG SSR)が11月初めに実施した世論調査によると、4件とも賛否が拮抗するなか、①と③は可決、②と④は国民投票で否決される公算が大きくなっている。国民投票で否決された法案は、原則として廃案になる。

①医療費の拠出配分の見直し

医療保険制度の改革案も、今年6月に続いて再び国民投票にかけられる。強制加入の基礎医療保険は、医療費増大に伴い保険料が上がり続け、家計を圧迫している。だが保険料引き下げを目的とした改革案は、6月の国民投票で否決された。

24日の国民投票では、治療費の拠出配分が焦点になる。患者を入院から外来治療に誘導し、被保険者が支払う保険料を抑えるのが狙いだ。

現在、入院治療では治療費の最大45%を保険会社が、最低55%を州が負担する。負担率は州によって異なる。一方、外来治療は全額が保険料で賄われる。

改革案は、外来・入院にかかわらず州が最低26.9%を負担する。これにより誤ったインセンティブが解消され、不必要な入院が減ると期待される。また外来で済めば医療コストも下がり患者の負担も軽減されるほか、医療スタッフの勤務時間の軽減にもつながるという。

医療費全体でみると、スイスは医療費全体の3割を連邦・州・基礎自治体が拠出する。この公費負担割合は日本(32.5%)とさほど変わらない。強制・任意保険料からの拠出は46.9%と、日本の53%を下回る。

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この医療保険法改正案は14年にわたる議論を経て、2023年12月にようやく連邦議会で可決された。30年の歴史を持つ医療保険法における最も包括的な改革の1つとなり、連邦保健庁は年間4億4000万フラン(約770億円)の医療費削減効果があると見積もる。

だが改正案に対し労働組合が待ったをかけ、レファレンダムを立ち上げた。改革案は介護サービスも対象となるため、高齢者サービスの質が下がると批判。保険適用の決定プロセスで州より民間企業の発言権が強まり、介護施設の職員の負担が増すとも懸念する。

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②高速道路の拡張

スイスは比較的小さな国だ。最長の高速道路A1号線ですら西から東までわずか422kmしかない。A1は最も長いだけでなく、最も渋滞が激しい。連邦統計局によると、2023年のA1の渋滞による損失時間は合計1万6279時間と、前年より17%増えた。GPS大手トムトムがまとめる世界渋滞ランキング外部リンクには、ジュネーブやローザンヌなど複数のスイスの都市がランクインした。

渋滞解消に向け、連邦政府は議会に6件の高速道路拡張案を提出した。総費用は約50億フラン(約8700億円)で、うち4件がA1号線の拡張工事だ。議会は全てを可決した。

スイスの高速道路網
赤線がスイスの高速道路、うち太線がA1号線。工事現場マークは議会に示された6件の拡張案を示す Kai Reusser / SWI swissinfo.ch

これに対しレファレンダムを立ち上げたのが、環境に優しいモビリティを目指す「スイス交通クラブ(VCS)」を中心とする反対派連盟だ。レファレンダムを支持する緑の党(GPS/Les Verts)や社会民主党(SP/PS)は道路が拡充されれば交通量がさらに増える、と訴える。高速道路を拡張するのではなく、持続可能な移動手段を奨励し、公共交通サービスを拡大するべきだと主張する。議会通過から3カ月絶たないうちに必要数の2倍にあたる10万筆もの署名を集めた。

可決・否決のカギを握るのは農家の投票動向になりそうだ。農家には保守層が多く、保守派の国民党(SVP/UDC)は拡張に賛成している。ただ高速道路を拡張すれば代わりに農地が失われることになり、農家はジレンマを抱えている。

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③④賃貸ルール

スイスではほとんどの人が賃貸住宅に住むため、改正案は多くの国民に関係する。連邦統計局によると、2022年末時点で全世帯の61%が賃貸・共同住宅に住む。欧州平均を大幅に上回る割合だ。

24日の国民投票では賃貸法の2つの改正案が賛否を問われる。ともに所有者の立場を有利にする内容だったため、スイス借家人協会がレファレンダムを立ち上げた。

改正案の1つは、貸し主が借り主に対し転貸を拒否できる範囲を広げる。例えば転貸料が高額すぎるなど、「悪質な」転貸を拒否できるようになる。連邦政府・議会は、オンラインプラットフォームの普及により転貸の乱用が急増していると訴える。

もう1つは、貸し主が自ら貸し物件に入居したい場合に賃貸契約を前倒し解約できる条件を緩和する。

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スイス住民全員が国民投票に参加できるわけではない。連邦レベルで投票権を持つのは、18歳以上、被後見人ではないスイス国民に限られる。スイス国外在住者は別途登録が必要だ。投票権者は約550万人で、スイス人口(約900万人)の3分の2を下回る。

スイス国籍を持たない人は人口の約4分の1を占めるが、投票権はない。

実際に投票所に足を運ぶのは有権者の半数程度だ。連邦統計局によると、過去10年の平均投票率は41~57%だった。国民投票で勝利するには、約150万票あれば足りる計算だ。

連邦憲法の改正や特定の国際条約に関する国民投票では、州の過半数の同意も必要となる。だが11月24日の4件はいずれも有権者の過半数さえ獲得すればよい。

編集:Samuel Jaberg、英語からの翻訳・追記:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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